活動報告

講演会

中国経済クラブ(角広勲理事長)は8月28日、広島市中区のホテルで講演会を開いた。長崎大熱帯医学研究所教授の山本太郎氏が「Withコロナの時代の見取り図」と題して講演。感染症のパンデミック(世界的大流行)の歴史に触れながら、新型コロナウイルスとの向き合い方を提言した。要旨は次の通り。

新型コロナ感染者は世界で2千万人、死者は80万人に上る。恐らく根絶できない。では、どう向き合うのか。パンデミックの歴史から考えたい。

1918年に流行したインフルエンザの一種「スペイン風邪」は、米国の東海岸から広まった。18年は第1次世界大戦の最終年。米国の兵士が欧州に渡ったのが原因だ。流行の波は3度あり、日本でも当時の人口の4割が感染した。飛沫(ひまつ)から感染するのは新型コロナも同じだから、今回も人口の3、4割に広まれば最終的に収束すると考えられる。

収束にかかる時間は対策に左右される。何もせずに一定人口が感染するのを待ち、集団免疫の獲得を目指す方法は早い収束が見込める。ただし感染者が急増し、医療崩壊につながる恐れがある。命が選別され、社会全体で弱い人を守るという倫理観が失われかねない。

日本を含めた多くの国が取るのは、感染を制御しながら穏やかな収束を図る方法だ。ウイルスの強毒化も阻止できる。こちらが目指すべき方向だろう。

そもそも感染症はいつヒト社会に入ってきたのか。数十万の人口規模がないと流行はしない。農耕生活が始まり、人口が増加。そこにきて野生動物を家畜化したのがきっかけとなった。例えば天然痘はウシ由来、インフルエンザはアヒルか豚由来のウイルスだ。

ここ50年でみると、新型コロナを含め、多くの病気が度を越えた頻度で出現している。開発の名の下、人間がさまざまな生態系に進出し、野生動物と人との距離が近くなりすぎたのが原因だ。自然との付き合い方に一種の警鐘を鳴らしているとも言える。

パンデミックは時として社会の大きな変革を促してもきた。例えば中世の欧州に起きたペスト流行では、病気を制御できなかった教会が権威を失い、強制的に隔離する力を持つ国家が台頭した。中世という時代の解体につながった。

「コロナ時代」に置き換えると、確実に言えることはITを中心にした社会が来るということ。その使い方をこれから考えていかなければいけない。感染防止のため行動歴を把握するなど監視的な目的のために使うのか。それとも距離を取ることが求められる社会で、人と人との近接性をつくるために応用するのか。決めるのは私たちだ。

パンデミックはアフリカや南米、南アジアでも問題になるだろう。国際協力の在り方が大事になってくる。経済的影響が実は遅れて出てくること、少子化による人口減少の中で「アフターコロナ」を迎えることも、次の社会の在り方を考える上で念頭に入れておく必要がある。

(了)

中国経済クラブ
  • 事務局長

    宮田 俊範

  • 事務局員

    新久 みゆき、冨田 朋恵