中国経済クラブ(角広勲理事長)は3月17日、広島市中区のホテルで講演会を開いた。前内閣危機管理監で日本製鉄顧問の高橋清孝氏が、日本の危機管理と東京五輪・パラリンピックをテーマに講演。東日本大震災に対応した経験や反省を念頭に、有事に必要な備えやトップの役割を説いた。要旨は次の通り。
大規模な自然災害や重大な事件事故などに対応する内閣危機管理監を2年半務めた。省庁の縦割りを廃し役割の漏れがないように調整する司令塔の役割だ。24時間体制で、地震が起きたり北朝鮮が弾道ミサイルを発射したりするたびに首相官邸危機管理センターに駆け付けた。
危機管理には「リスクマネジメント」と「クライシスマネジメント」がある。リスクマネジメントは将来起こり得る危機を想定し、発生を予防したり被害を最小限にしたりする事前活動だ。私は必ず「憂いなければ備えなし」と言う。「備えあれば憂いなし」ではなく、想像力を発揮し、正しい憂いを持つことが大事だ。
この言葉は、内閣官房危機管理審議官だった時に起きた福島第1原発事故の際、痛感した。当時は東京電力だけでなく、官僚も原発の「安全神話」で思考停止していた。地震と津波、原発事故の同時発生、複数原子炉の同時事故は想定外。広範囲の住民の避難計画や要支援者の対応など全ての面で備えができていなかった。
一方、クライシスマネジメントは発生時の被害を最小化するための活動。当たり前だがトップは覚悟を決め、逃げないことが大事。最悪の事態を想定して大きく構える。全体像を把握して優先順位を決め、早く意思決定しないといけない。
これは組織の緊急事態にも通じる。最近では総務省官僚の接待問題がそう。内閣広報官が辞任したが、対応を見ていると菅義偉首相は問題を大きく考えておらず、残留させても収まると思っていたのだろう。全体像をつかめず、放送事業会社「東北新社」からの違法接待だけでなくNTT接待の問題も出てきた。最悪の危機管理だと思う。
危機管理で言われる「自助・共助・公助」とは役割分担だ。国や地方自治体が最善を尽くすのは大前提だが限界がある。自分たちの命は自分で守るという地域・個人の行動も重要だ。
東京五輪開幕まで約130日。ドイツの保険会社が実施した世界の大都市の災害危険度調査では、東京がワーストだ。
安全で円滑に開催するにはテロ、交通、新型コロナウイルスを含む感染症対策が欠かせない。テロに関しては住民が見聞きし、不審に思ったことを通報してもらうことが未然防止につながる。猛暑、台風の時季でもあり、その備えも大きな課題だ。
「勝ちに不思議な勝ちあり。負けに不思議な負けなし」という言葉がある。安心安全な社会と東京五輪・パラリンピック成功へ向け、みんなで役割分担しながら、しっかり準備したい。
(了)