中国経済クラブ(角広勲理事長)は7月28日、広島市中区のホテルで講演会を開いた。文芸春秋監査役の羽鳥好之氏が「出版ビジネスの未来」と題して講演。出版業界の収益構造が大きく変わる中、発行する週刊文春のウェブでの取り組みなどを紹介した。要旨は次の通り。
2019年7月の参院選広島選挙区で初当選した河井案里氏の陣営を巡る疑惑や東京高検元検事長の黒川弘務氏の賭けマージャン問題などを週刊文春がスクープした。「もうかるだろう」と言われるが、現実にはそんなにもうけているわけではない。週刊文春の売り上げはピークから6割ほどに減っている。インターネットに関心が移る中で、どうやって出版社の収益を守るのかは大きな課題だ。
16年に始めた文春オンラインは、PV(ページビュー)に応じて広告料が入る仕組み。当初は文化寄りのコンテンツを中心にしようとしたが、存在感を高めるために週刊文春の記事を流すようにした。月間PVは約4億。出版社系のニュースサイトではナンバーワンになった。
ネット広告はそのサイトを閲覧する層に応じて、広告料が変わる。アイドルなど芸能ニュースは注目を集めるが、良い広告がもらえない。一方、政治や経済の話題はスポンサーの関心が高いものの、PVが伸びないというジレンマを抱えている。
ただ、新型コロナウイルス禍でも漫画を扱う出版社の収益は良かった。アニメにもなった「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」は単行本に加えて映画の人気がすさまじく、国内興行収入は過去最高を記録した。さらにはキャラクターグッズや菓子などで莫大(ばくだい)なロイヤリティー(使用料)が入る。以前に比べて自動翻訳の技術が進み、世界へ向けた配信も容易になった。
これまでは人気のある漫画がアニメ、そして映画になるという流れが一般的だった。近年は作品の感触を探るため、動画配信サービスを手掛ける企業が制作費を出し、映像化するというビジネスモデルも出始めている。行けると踏めばさらに資本を投入する。収益性の高いロイヤリティーを得るためで、新しい。
電子コミックが普及し、マーケティングの方法も変わってきている。例えば無料で最初の3巻を配信し、面白ければその先は金を出して買ってもらう手法だ。それが大きな収益を上げている。無料提供の後に、費用を回収するというのが一般的なモデルになってきている。
出版のビジネスモデルは劇的に変化している。これからの世の中がどうなっていくのか分からない。10年後、文芸春秋が大きな影響力を持てているのか楽観視できないのが正直なところ。サイトの閲覧数だけでなく、質でスポンサーの評価を得て、ビジネスモデルを構築するというのも一つの方法だ。どうやってこれからの収益構造を見つけていくか、挑戦を続けている。
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