中国経済クラブ(角広勲理事長)は11月10日、広島市中区のホテルで講演会を開いた。昭和大医学部客員教授の二木芳人氏が、新型コロナウイルスの感染状況や「第6波」を見据えた課題を解説した。要旨は次の通り。
日本では感染が落ち着いているが、収束に向かうと考えるのは早計だ。世界的には感染者、それに死者も増えかけている。日本はワクチンが効き、死者数を抑えられているが、世界はその恩恵に浴していないということ。第6波の兆しが明らかになりつつある。
米国は第5波が収まってきている。が、感染者の減り方が鈍ってきた。北部を中心にまた増え始めた州があるためだ。全米に冬が到来すれば、南部も増加に転じかねない。ワクチン接種率も60%を超えておらず、収束には程遠い状況だ。
欧州の国々でも最近、感染が活発化しつつある。英国は昨年12月頭からワクチンを打ち始めたが、接種率60%を超えた頃、行動規制を取っ払った。途端にこの状況だ。積極的な感染対策も必要だと分かる。接種率が極端に低い東欧の国でも感染爆発が起きている。
つまり政策や国民性による差はあるが、世界はパンデミック(世界的大流行)の真っ最中だ。日本はワクチン接種が進んだ上、国民が慎重に行動し、感染者が一気に減ったが、冬に向かうし、12月は行事も多い。これまでの反省を生かし、今後に備える必要がある。
第5波はなぜ、あんな大波になったのか。最大の要因は、とんでもない感染力のデルタ株だ。日本は被害予測を過小評価し、対策が遅れ、流入を止められなかった。今、水際対策の緩和が進んでいるが、次の変異株が持ち込まれれば、第6波の引き金になりかねない。海外の状況を把握しながら慎重に進めるべきだ。各国と協力し、新たな変異株に注目する必要もある。
またデルタ株が入ってきた頃は緊急事態宣言などが出っ放しだった。「またか」「そうだっけ」。みなさんの心に隙間ができた。めりはりを付けないと。
もう一つの問題が医療提供体制だ。第5波では重症化リスクが低い人を自宅療養とする方針が出て、私はひっくり返った。実際に急変し、自宅で亡くなる人もいた。ワクチンが浸透し、今後は重症者はさほど増えない。軽症、無症状の人への対応が問われる。日本は病態変化に応じた治療法も分かってきている。手当てが遅れないよう、大規模療養施設などで診るべきだ。
ワクチンは早めに接種率8割を超えるよう頑張りたい。高齢者や病気がある人から3回目を打ち進めることも大事だ。検査も増やしたい。無症状でも無料化する政府方針は大正解だ。
ただワクチンが全世界に普及しないと、パンデミックは収束しない。アフリカは接種率が1桁の国が大半だ。闘いはしばらく続く。
パンデミックの原因が人口の増加と集中、地球環境破壊にあることも覚えておきたい。次の感染症が来ないよう、一人一人が心掛けるべきことがあるはずだ。
(了)