活動報告

講演会

中国経済クラブ(苅田知英理事長)は6月15日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開いた。慶応大総合政策学部教授の広瀬陽子氏が「ウクライナ危機~ロシアの外交戦略と国際社会」と題して講演。ロシアが「無意味な戦争」に踏み切った背景や、世界各国への影響を解説した。要旨は次の通り。

ロシアによるウクライナ侵攻は論理的に全く説明できない。なぜウクライナに固執するのか。プーチン大統領の外交の狙いは、旧ソ連諸国をはじめとする勢力圏に影響を及ぼし続けること。だから、西側諸国の北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)の東方拡大が許せないのだ。

中でも大事なのがウクライナだ。あくまでプーチン氏の考え方だが、両国はキエフ公国の歴史を共有している。民族的な近接性も大きい。何より、西側との緩衝地帯として重要なのだ。

そのロシアが展開する「ハイブリッド戦争」は正規軍による軍事戦闘だけでなく、サイバー攻撃や心理戦などを組み合わせた手法を指す。最大のメリットは低予算で済むこと。ロシアの軍事支出は世界5位だが、額面上はトップの米国の8%にとどまる。正規軍を民間軍事会社に置き換えたり、サイバー攻撃で相手にダメージを与えたりして低コストで成果を上げることに意味があるわけだ。

ロシアは「政治技術者」も使う。相手国の市民に紛れ込み、人々を洗脳し、投票行動まで変えるよう仕向ける。2014年のクリミア併合時はこれが奏功し、現地の人々はもろ手を挙げてロシア軍を歓迎した。

プーチン氏は、今回も同じ活動がうまくいっているとの誤った情報を信じ込んだとされる。西側諸国との交渉の場もあったのに妄執や勝手な歴史観から戦争を開始。NATO拡大を阻止するどころか、北欧2カ国の加盟申請を招き、旧ソ連諸国のロシア離れも広げてしまった。まさに「オウンゴール」だ。ロシアが衰退していくのは間違いない。

この戦争は日本にも人ごとでない。米国の一部と捉えられ、ロシアに攻め込まれていた可能性を考える必要がある。日本はサイバー攻撃にも弱い。情報リテラシーが低く、偽情報に惑わされ、国家が疲弊する可能性もある。対策が必要だ。

各国の思惑はどうか。米国にはロシアが弱体化し、中国に集中できる環境が望ましい。ただ混乱は望んでいない。戦後処理を終わらせるまでプーチン政権を温存することも考えている。欧州は一枚岩でない。制裁の悪影響が自国に及ぶのを避けたい国もあるからだ。

中国はロシアと適度に距離を置きつつ経済的な援助はする、との立場。ロシアやウクライナの小麦の主な輸出先となっているアフリカや中東諸国は今、食糧危機の懸念を抱えている。

今後、新たな世界秩序ができることも想像される。国連改革や戦争犯罪を処罰できるシステムづくりを進めるべきだとの声もある。国際協調の下、今回の戦争の反省を生かした体制を構築することが大切になる。

(了)

中国経済クラブ
  • 事務局長

    宮田 俊範

  • 事務局員

    新久 みゆき、冨田 朋恵