活動報告

講演会

中国経済クラブ(苅田知英理事長)は9月15日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開いた。ニッセイ基礎研究所(東京)の伊藤さゆり研究理事が「ウクライナ侵攻の世界経済の影響」と題して話した。経済のグローバル化を巡る国際社会の対立や格差の問題が、侵攻後のエネルギー価格の高騰やインフレによって顕在化したと分析した。要旨は次の通り。

ウクライナ侵攻は制裁を科している欧米など西側諸国とロシアの経済戦争となり、勝者なき消耗戦の様相を呈している。資源、貿易、金融での経済制裁が即効性を発揮せず、副作用が想定を超えた。新型コロナウイルス禍やグローバル経済を巡る課題が表れていた中で、侵攻による影響が加わった。

ウクライナを支援する欧米の各政権に対し、国内世論の支持は必ずしも伴っていない。一方、ロシアは侵攻当初は制裁への防衛措置に重点を置いていたが、天然ガスの供給削減など先手を打って対抗するようになった。各国が天然ガスをロシア以外から調達する態勢を整える中で、値上がりが激しくなっている。脱炭素化で開発が抑えられていた石炭も需要が急増した。

ロシアへの経済制裁に参加している約50カ国は、欧米に偏っている。国際社会では、西側諸国から距離を置きたいという国が多数を占めている。冷戦終結からグローバル経済が進んできたが、2010年代半ばには米国と中国の経済対立が強まり、民主主義と権威主義の勢力争いが始まっていた。コロナ禍でモノの流れが滞り、ウクライナ侵攻も起きてグローバル経済には亀裂が明確に出た。

エネルギーなどを武器に欧米に対抗するロシアの動きを受け、コロナ禍で混乱していた国際的な供給網に負荷がかかった。インフレも加わり、低所得層はさらに疲弊している。一方でインフレ対策で欧米の中央銀行の利上げペースは上がっている。特に米国はコロナ対策で財政出動した結果、国内で貯蓄が積み上がり、消費意欲が高まっている。

国際通貨基金(IMF)は世界のインフレ率の見通しを昨年から引き上げ続けている。インフレ率のピーク予測は侵攻前に5%余りだったが、今年7月は約9%に上る。日本でもエネルギーや食糧のコスト高で物価がアップしているが、欧米では賃金と物価上昇が繰り返される状況が現れている。欧米は利上げと財政出動でインフレ抑制に動くが、インフレの規模が小さい日本は金融緩和を続けている。

欧米はインフレ、中国は内需の冷え込みが響くが、ロシアとウクライナの和平が進み、国際協調の流れが進めば、世界経済の課題解決にもなり得る。かつてのように米国が中心になり仲裁をまとめることが難しくなった。中国は途上国に対する債権を焦げ付かせたくないという理由で、世界経済を支える動機もある。ウクライナ侵攻で日本は経済安全保障への優先度を高めているが、国際協調も追求する必要があるだろう。

(了)

中国経済クラブ
  • 事務局長

    宮田 俊範

  • 事務局員

    新久 みゆき、冨田 朋恵