活動報告

講演会

中国経済クラブ(苅田知英理事長)は10月20日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開いた。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏が「コロナ禍後の新時代に地域の鉄道を守るには」と題して講演。硬直化した運賃制度を見直し、大都市圏での収益性を高めることが地方路線の維持にもつながると強調した。要旨は次の通り。

新型コロナウイルス禍によって、鉄道業界は明治期以来初めてと言える急激な変化の波にのまれている。JR西日本は4月に芸備線や福塩線など17路線30区間の収支を開示し、存廃の行方が注目を集めている。国の有識者検討会は「(一部は)廃止も仕方ない」とするが、慌てて廃止することはない。鉄道会社が得意分野で稼げる収支構造に変えていくことが先決だ。

JR西の2021年度の鉄道運輸収入は4876億円。コロナ禍以前の18年度から44%減った。利益の多くを生み出していた新幹線の収入が以前の半分にとどまったことなどから、21年度の赤字額は1千億円を超えた。投資家に「早く利益を出す構造に戻せ」と迫られ、JR西も「地域の鉄道をなんとかする」姿勢を示そうとしている。

ただ、JR西の収支構造の最大の問題は、大都市の通勤輸送の利益率の低さにある。通勤定期が大手私鉄に比べて格段に安いためだ。大阪近郊の10キロ区間の通勤1カ月定期は、JR5280円(割引率約51%)に対し、近鉄9930円(同36%)阪急8170円(同41%)と開きがある。

少しでも割引率を抑えれば、JR西全体で大幅な増収となり、芸備線など17路線30区間の赤字の合計額約250億円を補ってもお釣りが来る。JRの運賃は国の認可制で、3年分の原価計算が必要なため、弾力的な値上げが難しかったが、コロナ禍を機に規制を緩めるべきだ。

もちろん、ローカル線の問題は先送りできない。中長期的な対策が必要だが、まずは主な顧客である高校生を逃がさないことだ。登下校や部活に便利なダイヤ設定、学校近くへの新駅設置などが考えられる。対策を怠ると、学校がスクールバスを手配したり、保護者が送迎したりして高校生すら利用しなくなり、鉄道としての存在意義を失う。

芸備線でいえば、広島―三次の都市間輸送の充実も鍵になる。広島―志和口をノンストップ、志和口―三次を各駅停車の特急列車を走らせるのも一考だ。北海道では、空いている普通列車を減らす代わりに、沿線住民が特急券を10円で買えるようにした事例がある。

三次―備後庄原はコストを地元が負担すれば存続できるレベルだ。線路を自治体などが保有・管理し、鉄道会社が運行に専念する「上下分離」方式も有効だ。運行会社が黒字になると社員の士気が上がり、住民の見る目も変わる。無線による踏切の制御や無人運転など、技術革新によって鉄道の維持コストはもう少し下がる余地がある。時代に即した姿に変えていくことが必要だ。

(了)

中国経済クラブ
  • 事務局長

    宮田 俊範

  • 事務局員

    新久 みゆき、冨田 朋恵