中国経済クラブ(苅田知英理事長)は11月18日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開いた。防衛省防衛研究所政策研究部長の兵頭慎治氏が「ロシアによるウクライナ侵攻の衝撃」と題して講演。ロシアのプーチン大統領が追い込まれた際に、核兵器使用が現実味を帯びると指摘した。要旨は次の通り。
先日、ロシア製ミサイルが北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドに着弾した。今まではウクライナ領内の戦場でロシアとウクライナが戦争していたが、飛び火するリスクが常にあるということで世界中がひやっとした。
今回のウクライナ侵略は「プーチン大統領の戦争」といわれている。本人が決断しない限りは止まらない。国際法や国連憲章に違反している。日本にも政治面や経済面で極めて大きな影響が出ている。
2014年に続くロシアの2度のウクライナ侵略には共通点がある。それは、米国が直接介入してこないという確信をロシアが持っていたことだ。
(クリミア半島を強制編入した)14年は当時のオバマ大統領が「米国は直接的に介入しない」と早い段階で宣言した。昨年にロシア軍がウクライナ国境に集結し、侵略するそぶりを見せ始めた際には、バイデン大統領が早々と直接介入を否定した。通常戦力で圧倒的に上回る米側が出てくると、ロシアに勝ち目はない。
侵略の背景には、ロシアの「影響圏的発想」がある。分かりやすく言うと自分の縄張り。その中でウクライナは重要な位置を占める。ロシアの起源はキエフ公国にあり、ロシアの文化や歴史をたどるとキエフ(キーウ)に行き着くからだ。また、ロシアは最近、北極海とオホーツク海を海の上の自らの縄張りとも見なし始めている。
今、戦況悪化で追い込まれる中、プーチン大統領は四つのカードを切った。①見せかけの住民投票とウクライナ東部・南部4州の「併合」②30万人の国民の部分動員③核使用による威嚇④併合4州の戒厳令、ロシア全土の警戒態勢―だ。
今後の注目点の一つは大量破壊兵器使用のリスクだ。問題は戦術核で、その使用には2通りある。一つ目は国家存続の危機に立たされたと判断した場合だ。二つ目は、相手側の戦意を喪失させる政治的デモンストレーションとしての使用だ。例えば、海洋上などあまり人がいないところで使ってみせて、核戦争になる危険があると思わせ、相手の戦闘行為を抑えるという使用が想定される。
核使用はプーチン大統領にとってもハードルが高い。ただ、すでに四つのカードを切っている。戦争に負け、クリミア半島も取られ、権力を手放さざるを得ないまでに追い込まれた時に「窮鼠(きゅうそ)猫をかむ」ということが心配される。今はそういう状況では全くないが、広島、長崎に次ぐ被害を出すことは許されない。どこかで出口を見いだしてほしい。
(了)