中国経済クラブ(苅田知英理事長)は7月20日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開いた。元統合幕僚長の河野克俊氏が「今後の日本の安全保障とその課題」と題して話した。ロシアのウクライナ侵攻が長期化する中、中国による台湾有事の可能性も指摘。米国と連携した日本の防衛力強化の必要性を説いた。要旨は次の通り。
ウクライナ戦争は第2次大戦後、世界の人々が信じて疑わなかった二つの安全保障の枠組みを突き崩した。一つは核拡散防止条約(NPT)体制だ。米国、英国、フランス、ロシア、中国の五大国は核兵器を持ち、他の国は持たない。五大国に責任感と分別があるのが、建前だが前提だ。
ロシアは核兵器で、ウクライナを脅している。こうなると、持たない国は安心できない。核拡散の歯車が回り出したとまでは言わないが、たがは外れた。それぐらいロシアは罪深い。
北朝鮮が核放棄する可能性はないと思う。日本は中国、ロシア、北朝鮮という核保有国かつ「1人の人間が何でもできる」という専制主義国家に囲まれてしまった。世界で最も厳しい環境に置かれた。
二つ目は核戦争を恐れて軍事的に動かない米国を世界が初めて見たことだ。1991年の湾岸戦争では、米国が主体となって多国籍軍を編成し、1カ月でイラク軍を放逐した。バイデン米大統領はウクライナ戦争に軍事介入しないと早々に言った。ある意味、核を持つロシアに抑止された。
日本は米国の核の傘に全面的に依存している。おそらく、ほとんどの日本人は100%に近い安心感を持っていた。ウクライナ戦争で80%ぐらいまで落ちた。
この20ポイントをどう埋めるのか。非核三原則に関する議論が全くないのはおかしい。政治家がリードしないと国民的議論にはならない。故安倍晋三元首相は米国の核兵器を日本が共同運用する「核共有」を含めてタブーなく議論すべきだと打ち上げた。自主的に国民から議論が湧き上がるわけではない。政治の責任だ。
中長期的には、日本の最大の脅威は中国だ。習近平国家主席は、来年1月にある台湾総統選の結果で、政治的に併合するか軍事的に併合するか見切りをつけるだろう。習氏は共産党総書記3期目が終わる2027年までに成果を上げないと、4期目を狙えない。私は24~27年が要注意だと思っている。
台湾に事が起これば、日本は軍事的にダメージを食らう可能性が高い。防衛力の強化は実行に移してもらいたい。一般に「攻撃する側は防御する側の3倍の兵力が要る」といわれている。その意味で防衛側は3分の1の防衛力で良い。目指すのは、習氏が台湾に手を出すのを、米国と組んでちゅうちょさせるだけの防衛力だ。
(了)