中国経済クラブ(苅田知英理事長)は9月13日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開いた。ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員が「現下の個人消費 物価高進行下の消費行動」と題して話した。新型コロナウイルス禍を経て個人消費に変化があったことを振り返り、「将来世代の経済基盤の安定化は必須」と説いた。要旨は次の通り。
個人消費は、新型コロナの感染拡大でリーマン・ショックや東日本大震災の時以上に落ち込んだ。新型コロナの法的位置付けの5類移行で回復は進んでいるが、コロナ禍前の数字を超えていない。物価高が長く続く中で実質賃金がマイナスに推移し、消費者としてはお金をどんどん使おうということにはなりにくいのが現状だ。この先、賃上げがどれだけ浸透するかが重要になる。
物価の上昇基調は続いているが、秋以降に一服するとみている。一方、消費者からすると、上昇率が落ち着くだけで当然ながら価格が下がるわけではない。体感としては生活必需品を中心に負担が増し、今後も高止まりが続くだろう。
そうした状況でも消費者マインドは変化している。長らく続いたデフレでは、企業努力による無理な価格抑制が支持されてきた。今はそのやり方が賃金上昇を抑制し、日本の競争力低下に結びつくという理解が浸透してきている。
品質を下げてでも値上げをしないという姿勢は支持されにくい。丁寧に説明することは企業イメージの向上につながり得る時期で、今は値上げの機会とも言える。
コロナ禍の行動変容を振り返ると、感染不安による外出自粛で外出型の消費が大幅に減る一方、巣ごもり消費が活発化した。特に影響が大きかったのは食生活だ。外食が減った代わりに中食や内食が増えた。人の流れが変わったことで、飲み会の2次会需要が戻りにくくなっている。
デジタルシフトが進み、テレワークも浸透している。就業者の4割弱が在宅勤務などによるテレワークを利用している。
そうした中、都市から離れて自分らしく生き、働く考え方が特に若い世代で広がっている。重要なのは、その場所に仕事があるのかどうかということ。逆に言えば、それがあるならば、地方移住というのは若者に響きやすくなっている。
日本の個人消費を考える上で大事なのは、将来世代の経済基盤の安定化だ。男性が大黒柱という時代でもないとは思うが、実際には男性の年収と既婚率は比例している。また、働く女性が増えて収入が増えれば経済の底上げにもつながる。経営者には、若者の経済環境の改善をお願いしたい。