中国経済クラブ(苅田知英理事長)は4月24日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開いた。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストが「2024年の日本経済展望」と題して話した。大企業では賃上げと値上げが進む一方、中小企業への波及には難しさもあると分析した。要旨は次の通り。
今年の大きな動きは値上げ、賃上げ、利上げなど「上がる」という言葉に尽きる。円安で輸入物価が上昇すると、生活費が高くなる。エネルギーや食料品は多くを輸入に頼っているため、値上げに大きく響いてくる。訪日客が増える中、ホテルなどのサービス価格も上昇している。
消費は新型コロナウイルス禍で最も厳しかった時期に比べると増えている。しかし、販売数量はほとんど増えていない。中小企業は販売数量が落ちても利益を確保するため、値上げせざるを得ないという苦しい立場にある。値上げを巡り、企業間の格差が広がる時代に入るのではないか。
値上げの影響を緩和するには賃上げが欠かせないが、なかなかうまくいかない。春闘では大企業で大幅な賃上げが相次いだ。横並び意識で引き上げが広がった。大企業は比較的値上げや輸出のもうけを人件費に充てられた。大企業で人数の多いバブル世代が役職定年などを迎え、抑えられた人件費が初任給のアップに回っているとみられる。
賃上げの中小企業への波及も、大企業と取引している製造業以外の零細、自営業などは厳しい。ただ、中小の値上げは遅れて進む。賃上げをするためには値上げが必要な面もある。賃上げの前提として財政や金融政策の正常化も進まないといけない。
日銀が3月にマイナス金利政策を解除した。為替によって変動する輸入物価だけでなく、サービス価格の上昇も根拠にしている。預金金利が上がれば、経済の循環を円滑にする効果がある。日本がデフレ構造を脱していくかどうかが課題だが、なかなか簡単に解決できない。
株価は今年に入り急上昇した。昨年3月、東京証券取引所が上場企業に金余りの状態の改善を求め、自社株買いや人などへの投資に期待が寄せられたという要因もある。もっと底流に大きな構造変化があるのかもしれないが、まだ分からない。
米国株が上がる中、投資家は資金を分散するための配分先を探す。欧州や中国の経済は不振で、日本株に資金が入っている。米国の景気が悪化した場合、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)の利下げが控えているので、米株価は崩れにくい。利下げが遅れる観測もあり、円安にさらされやすくなっている。