中国経済クラブ(苅田知英理事長)は10月24日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開いた。大和証券金融市場調査部の谷栄一郎部長が「激動期を迎える内外債券市場」と題して話した。名目国内総生産(GDP)成長率を踏まえ、政策金利は1%前後が見通しの目安になると分析した。要旨は次の通り。
金利の動向は企業の資金調達にも影響する重要な要素だ。海外の主要な中央銀行は軒並み利下げに向かっている。一方、日本の10年物国債の金利は、2010年代のマイナスを経て1%あたりに回復した。日経平均株価は2月、最高値を更新。為替相場も一時1ドル160円を突破する円安となった。明らかな変化が起きているのではないか。
物価変動による影響を除いた名目GDP成長率は、長い目で見ると短期の政策金利と連動する傾向がある。バブル崩壊後の1990年代から2020年ごろまで名目GDP成長率はおおむね0%。日銀は政策金利をゼロやマイナスにせざるを得なかった。
現状は名目GDP成長率が大きく上がっている。名目GDP成長率が3%で安定するのであれば、0・25%程度となっている政策金利は1%を超えるだろう。一方、成長率が1・5~2%程度なら政策金利は1%に届かないのではないか。日経平均株価が4万円から大きく下がるなどの現状は、利上げを急ぎ過ぎてはならないという市場のシグナルとも受け取れる。
物価や金利の上昇は、円安だけが原因ではなく、継続すると考えている。転換期を迎えるグローバル経済の流れが背景にある。デフレの時期は、世界の供給網の中心を担っていた中国に引っ張られる形で日本の賃金は下がった。
しかし、米政府は22年、中国との対立を受けたサプライチェーン(供給網)のてこ入れを表明。重要な物資を同盟国から購入するという考えだ。日本では半導体産業への投資が進んでいる。
国内の人口減少による人手不足や賃上げも、インフレに向かう要因とみている。大企業を中心に業績を伸ばす一方、大手ですら給料を上げないと若者を採用できなくなっている。ただ、賃上げが進んだとしても、人口が減るだけに個人消費の伸びには結び付きにくい。
今後は人工知能(AI)の技術革新で生産性が上がるだろう。日本は働き手が足りないので、失業など負の影響が比較的少なく、生産性を上げた分の賃上げを進められる。人口が増えている国より有利になる。生産性の向上は過剰なインフレを抑える面もある。
グローバル経済の転換と人口減少、技術革新が重なり合っている。日本にとって有利な状況ができつつあるのではないか。